体験談

人の話を聞くこと

糖尿病予備軍の方へのカウンセリング

あるとき日本免疫研究会さんのご紹介で、「HbA1c値が5.6以上の糖尿病の予備群の方」に、初めに予防のためのカウンセリングをすることになりました。カウンセリングの内容は、予防医療の観点から体の状態を説明します。そのあとで、食事療法や運動療法を提案して、自分でやることを決めて日々チェックしていきます。1ヶ月後にどのくらい実践できたかを聞いて、必要なアドバイスをするというコースです。

食事療法にも運動療法にも関心がないクライアントさん

ここではある方との、カウンセリングの様子を書かせていただきます。
「今まで、糖尿病に関して何か治療をされたことはありますか?」
「先日の健康診断で糖尿病の数値が引っ掛かりました。そこで、主治医(糖尿病の専門医)のところに行って、どうしたらいいかという話を聞いてきました」
「専門医からはどのようなアドバイスがありましたか?」
「お酒を減らせば数値は下がると言われていました」
「その話を聞いて、何か取り組み始めたことはありますか」
「私はワインが好きで、毎日ワインを1本飲むのが楽しみです。お酒をやめた方がいいと言われましたがそれは無理です。またワインを飲みながらつまみを食べるので、食事療法もやる自信がありません。歩くことは苦ではないのですが、運動するのはちょっと難しいです」と言われました。

打つ手がなくてワインの話を聞く

今回のカウンセリングのために用意したカリキュラムは、食事療法と運動療法が中心です。その中から相手に合うセルフケアーの方法を提案し、自分でやることを決めて実践してもらいます。
しかし、この方は食事療法や運動療法はできればやりたくはないけど、と言われるので、準備したものを話しても意味がなさそうです。そこで、もう少し話を聞いて相手のことを理解すれば道は開けてくるだろう、と思っていろいろと話を聞いてみました。
その方は、自宅にワインセラーまである本格的なワイン愛好家で、ワインの知識をたくさん持たれていていました。私が接待でよく使うイタリアンのお店には、ワインがたくさんあるのに何も知らないので、ワインについていろいろと教えていただきました。

ワインの話だけで終わりそう・・・

初回のセッションは信頼関係を築くことが大切なので、話を聞き続けました。あっという間に30分過ぎ、このままだとワインの話だけで終わりそうです。
さすがにそれではまずいと思って、簡単なセルフケアーの方法を提案しました。
「食事のときに箸を置いて30回噛んで食べましょう」と伝えると、ワイン談義に気をよくしたのか「はいわかりました。それならできそうなのでやってみます」という答えが返ってきました。
40分経過して終わりの時間が近づいてきました。しかし、話すことがないので残りの時間もワインの話をして終わりました。

食事の量とお酒の量が減る

次の日の朝メールが届いていました。「1口30回噛んだらつまみの量が減りました。不思議なことにワインの量まで3分の1ほど減りました。これには驚きです」と書いてありました。
昨日のカウンセリングではワインの話ばかりしていたので、これでいいのだろうか? と不安になっていました。また30回噛んだからといって、ワインの量が減るとは思えません。しかし、本人から「いい方向に変化した」と喜びのメールが来たので一安心です。
その後も、「4日間で体重が700グラム減りました」「こういうことを実践しました」という報告のメールが週に何回か来ました。

1ヶ月で体重が1.7キロ減る

1ヶ月後に2回目のカウンセリングがありました。セルフケアーとして「箸を置いて30回噛む」ことをどのぐらい実践できたかを聞くと、ほぼ毎日できたとのこと。そして、「この1ヶ月間で体重が1.7キロ減りました。これまでにやったことは、ごはんを食べるときに箸を置いて30回噛んだだけです。それだけで体重が減ったので不思議です」と言われました。
1ヶ月間の取り組みの振り返りを数分間すると、それ以外に話すことがなくなりました。そこであとの時間は、またワインの話をしていました。

運動はあまり得意ではないとのことでしたが、信頼関係が築けたので「腕ふり体操」を50回やることを提案しました。次の日の朝メールを開けると、「昨日は腕ふり体操を40回できました」と報告してきました。1ヶ月後には「70回に増えました、私は運動が嫌いなのに毎日続くのが驚きです」との報告がありました。

自ら「体重を4キロ減らす」と目標設定してくる

2ヶ月後に3回目のセッションがありました。箸置きと腕ふり体操ができたかを聞くと、ほぼ毎日できたとのこと。体重を毎日測っていることの影響なのか、「体重を4キロ減らす」という目標を作ったと話してくれました。これには凄いと思いました。それは、今までのセッションでお話ししたことは、箸置きと腕ふり体操だけだったからです。
自分で決めたルーティーンと、体重測定の結果のチェックを5分ほどすると、あとは話すことがなくなり、残りの時間はまたワインの話を聞いて終わりました。

自然にお酒の量が減った・・・

3か月後の最終セッションも、箸置き、腕ふり、体重測定ができたかをチェックすると、あとは話すことがありません。残りの時間は相手の話を聞くしかなくて、ずっとワインの話を聞いて終わりました。
今回の体験は本当に新鮮でした。やったことは、毎回初めの5分ぐらいは、クライアントさんが「やると決めたこと」と体重測定ができたかをチェックします。あとはワインの話を聞いていただけです。 この3ヶ月間、私は「お酒の量を減らせ」とは一言も言っていないのに、自然とお酒の量が減ったようです。

ワインを飲みに行く

カウンセリング終了後クライアントさんから、「出張で東京に行く」とメールが来ました。そこで銀座のDAZZLEにお連れして、ワインを飲みつつ親交を深めるといいのではと思いました。さっそく電話して、「銀座のイタリアンのお店にめちゃくちゃ頭の切れるソムリエがいます。彼はワインに詳しいだけでなく、おもてなしのプロなので行ってみませんか?」と誘うと「ぜひ行きたい」とのこと。
通常、カウンセラーがクライアントさんと一緒に飲食に行くのはルール違反です。
しかし、今までの流れからすると、ワインを飲みながら人生を語ることで、信頼関係がより深まるように感じたのでお会いすることにしました。

当日レストランで、彼はどの料理にどのワインを合わせるかを、一皿ずつソムリエさんと相談していました。ワインと料理を楽しみながら、心ゆくまでソムリエさんとワイン談義をしてご満悦の様子でした。

マーケッティングの師匠の教え

今回のカウンセリング終了後、マーケッティングの先生から言われたことを思い出しました。
「人間は耳が2つで口は1つでしょう。ですから、しゃべるより聞くほうが大切なのです。人の話を聞いているときには、その人にスポットライトを当てて、その人をスターにしてあげているのです。
話を聞かれていると心地よくて、あなたを『いい人』として信頼し始めます。そして、『いい人』であるあなたから紹介されたものなので、疑問を持たずに買ってくれます。それぐらい人の話を聞くことは大切なのです」 私はエゴが強くて、人の話を聞くよりも自分の話ばかりしている。それは、スポットライトを浴びてスターになるのが気持ちいい、からだと思いました。しかし、長年培ってきた習慣を変えるのは至難の技で、今でも「人の話を聞かない」と友人から指摘を受けます。 これからは「きちんとプログラムして、人の話を聞いていこう」と思いました。

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