ツアーガイドから学んだこと

目の前の人にベストを尽くすということ

ガイド経験三年間から得た、サービスと人生の実践録

はじめに ツアーガイドは、新たな人生のレッスン?

ツアーガイドをしていて一番うれしいことは、ゲストから良い口コミをいただいたときです。
私はどんな仕事でもベストを尽くそうとしてきました。東洋医学の治療、健康食品の販売促進、東洋医学の講師、不動産経営。どの仕事でも相手から感謝されることはありました。
しかし、ガイドとしてゲストから感謝される喜びは格別です。なぜだろうと考えてみると、今までの仕事とは、自分の立場が反対だからではないかと思いました。
これまでの仕事では、専門家として相手よりも上の立場から、「私に任せてください。こちらのやり方のほうが、より良い結果を出せます」と仕事をしてきました。
ところがガイドは、どれだけ経験があっても、まずゲストの希望を聞き、そのニーズに合わせるところから始まります。
私なら、日本の文化を深く知ってもらうために、皇居を歩きながら侍文化を話したり、明治神宮や浅草寺で、日本人の宗教観や考え方を説明したりしたいと思います。
しかし、ゲストから「侍ショーや忍者ショーを見たい」「築地で皇帝丼を食べたい」と言われたら、そこへ行くことになります。皇帝丼というのは、大トロやウニが山のように載った、24,000円もする海鮮丼です。
私は65歳ですが、侍ショーや忍者ショーには行ったことがありません。築地の吹きさらしの屋台のような場所で24,000円の海鮮丼を食べるなら、私は寿司屋へ行きます(笑)。
でも、ゲストがそれを体験したいのであれば、私がどう思うかは関係ありません。せっかく行くのなら、100%楽しんでもらえるように、こちらも目一杯盛り上げます。
海外の旅行会社やゲストは、自分が持っている日本のイメージをもとに旅程を考えます。私たち日本人が考える日本文化とは少し違い、外国の方が思い描く「日本らしさ」を求めていることもあります。
プロの役割は、自分の価値観を押しつけることではありません。目の前のゲストが求めている体験を理解し、それを最大限に楽しませることです。
これは、今までの私の仕事にはなかったやり方でした。だからこそ新鮮で、楽しいのだと思います。人間は、いくつになっても新しいことに挑戦するとワクワクするものです。
もう一つ楽しいことがあります。私はガイドのインストラクターもしていますが、20代の外国人ガイドたちは、私を「アキ」と呼び捨てにして、「一緒に飲みに行こうぜ」「今度遊びに行こうぜ」と、まるで同年代の仲間のように接してくれます。
日本人なら、40歳も年上の相手には自然に「さん」を付け、敬語で話します。それが悪いわけではありません。しかし、年齢も肩書も関係なく平等に扱われることは、私にとってとても新鮮で、心地よい経験です。
ガイドという仕事は、日本を案内する仕事であると同時に、今までの自分の常識や価値観を手放し、もう一度人生を学び直す仕事なのかもしれません。
この三年間、私はガイドの仕事を通じて、サービスとは何か、プロフェッショナルとは何か、そして人をあるがままに受け入れるとはどういうことかを、何度もゲストから教えてもらいました。
この本は、正解を暗記するためのマニュアルではありません。失敗した日、難しいゲストに振り回された日、予想外の喜びをいただいた日。その一つひとつから私が学んだことを、新人ガイドの皆さんと分かち合うためにまとめたものです。
自分らしいガイドのあり方を考えるきっかけとして、読んでいただけたらうれしく思います。

第1章 サービスの本質は、相手の心を満たすこと

ある日、メンターと「サービスの本質とは何か」という話をしました。
私はガイドの研修生から、よく「どうしたら良いガイドになれますか?」と聞かれます。これまでは、
「ガイド中は常にベストを尽くすこと」
「目の前のゲストに、どうしたら喜んでもらえるかを考え続けること」
と伝えてきました。
しかし、言葉で理解することと、実際に行動することは別です。
メンターとの会話の中で、「サービスとは、お客様の心を満たし、笑顔にすることではないか」という話になりました。その言葉を聞いて、私はとても腑に落ちました。
細かな接客マニュアルがなくても、一人ひとりが「目の前のお客様を笑顔にする」という目的を共有していれば、その場に応じて自分で最善の行動を考えることができます。
大切なのは、どのように行動するかだけではなく、どのような思いで行動するかです。
何をするかだけではなく、どのような人として、その場にいるかです。
ツアーガイドも同じです。知識や説明の技術はもちろん大切ですが、それ以上に大切なのは、目の前のゲストに心から興味を持ち、その人に喜んでもらいたいと思う気持ちです。
その気持ちがあれば、今どんな言葉をかけるべきか、どこで休憩したほうがいいか、説明を続けるべきか、少し黙って景色を楽しんでもらうべきかが、自然と見えてきます。
サービスとは、決められた動作ではありません。
相手の心を満たそうとする姿勢そのものなのだと思います。
この章から学べること サービスはマニュアルではなく、目の前のゲストの心を満たそうとする姿勢から始まる。

第2章 「お客さんのために」ではなく、「お客さんの立場で」考える

良いガイドになるために何が必要かと聞かれたら、私の答えはとてもシンプルです。
目の前のゲストの立場になって考え、その人が求めているものを、一生懸命に提供することです。
ここで大切なのは、「お客さんのために」と考えるだけではなく、「お客さんの立場で」考えることです。
「お客さんのために」という言葉の中には、知らないうちに、「自分は相手よりもわかっている」という気持ちが入ることがあります。
しかし、「お客さんの立場で」考えるためには、自分の好みや都合をいったん脇へ置かなければなりません。
お客さんは何を期待しているのか。
お客さんは何を体験したいのか。
お客さんは何に感動するのか。
それを知るために、私はツアーが始まると、移動中や空いた時間を利用して、できるだけ話を聞きます。
「なぜ日本へ来たのですか?」
「日本のどんなところに興味がありますか?」
「今日、一番楽しみにしていることは何ですか?」
そうすると、同じ東京ワンデイツアーでも、築地ツアーでも、「このゲストには、こんな説明をしたら喜んでもらえるかもしれない」というアイディアが自然と浮かんできます。
そのためには準備も必要です。築地なら三つくらいのコースを持っておく。原宿なら何通りかの歩き方を知っておく。明治神宮でも、ゲストによって説明の内容やルートを変える。
そうして相手に合わせたツアーができるようになると、まず良いレビューをいただけるようになります。ときにはチップをいただくこともあるでしょう。これが第一段階です。
次の段階は、ゲストが母国へ帰ったあと、「日本へ行くなら、このガイドがおすすめだよ」と友人や家族に紹介してくれることです。
さらにその先には、「次回もこのガイドにお願いしたい」と旅行会社へ伝え、指名してくださる段階があります。
そこに近道はありません。
コースを研究し、説明の仕方を工夫し、ゲストの質問や要望にできる限り応える。その積み重ねによって、「この体験は、このガイドだからできた」と感じてもらえるようになります。
そのレベルを目指すなら、決められたコースだけを歩いていてはいけません。休日に街を探検したり、用事で違う場所へ行ったときに少し遠回りしたりして、「ここを組み合わせたら面白いかもしれない」と考えてみてください。
小さな発見の積み重ねが、やがて自分だけのツアーを作る力になります。
そして最後に一番大切なのは、今の自分にできる範囲で構わないので、「目の前のゲストのためにベストを尽くす」と決めることです。
その思いは、必ずゲストに伝わります。
この章から学べること 良いレビュー、紹介、指名へ進む出発点は、自分の都合を脇へ置き、ゲストの期待を知ること。

第3章 自信と謙虚さを持ってガイドをする

私は、ガイドのやり方には大きく分けて二つのタイプがあると思っています。
一つは、素直で謙虚に、落ち着いて案内するタイプ。もう一つは、「ここは私の庭です。最高の体験をお約束します」という気持ちで、堂々とゲストをリードするタイプです。
私や次郎さんは、どちらかというと後者です。次郎さんはよく「築地は自分の庭です」と言います。私も「東京中が自分の庭です」という気持ちでガイドをしています。
もちろん、本当に東京のすべてを知っているわけではありません(笑)。しかし、そのような姿勢で接すると、ゲストは安心してついてきてくれます。同時に、その言葉にふさわしいガイドになろうという覚悟が、自分の中に生まれます。
東洋哲学には「気は意に従う」という言葉があります。どのような意識を持ち、どのような言葉を使うかによって、自分の行動も変わっていくという考え方です。
「東京は自分の庭です」と口にすることは、ゲストを安心させるだけではなく、自分自身への約束でもあります。もっと東京を知ろう。もっと面白い場所を見つけよう。もっと良い体験を提供しよう。その言葉が、自分を成長させるガソリンになります。
ただし、本当に大切なのは、自信だけではありません。
ゲストの前では堂々としていても、学ぶ姿勢は誰よりも謙虚であること。新しい場所を歩き、新しい知識を学び、ほかのガイドの良いところを素直に取り入れる。その積み重ねが、根拠のある本当の自信につながります。
自信と謙虚さは、反対のものではありません。自信があるから安心感を与えられ、謙虚だから成長を続けられる。その両方を持つことが、良いガイドへの道だと思います。
この章から学べること ゲストには安心感を、自分には高い基準を。堂々と案内しながら、学ぶ姿勢だけは失わない。

第4章 侍スピリットをどう伝えるか

以前、私が「侍ショーや忍者ショーには行ったことがない」と書いたところ、以前ガイドした外国人のゲストから、「日本人なのに、なぜ侍や忍者に関心がないのですか?」と質問されました。
私は、侍に関心がないわけではありません。祖父は、私の家系が侍の家系であることに誇りを持っていました。
私の感覚では、侍や忍者は、命をかけて大義のために生きた人たちです。忍者も、侍のために身を隠し、ときには命がけで任務を果たした存在です。そのため、姿形だけを安易に真似ることには、少し違和感があります。
特に、なぜ侍が腹を切ったのか、名誉や家のために命を捧げるとはどういうことなのかを、日本で生まれ育っていない人に説明するのは簡単ではありません。
しかし、ガイドをしているときには、その難しい哲学を無理に理解してもらう必要はありません。ゲストがサムライミュージアムへ行き、兜や甲冑を着て刀を構えた写真を撮りたいのであれば、一緒になってめちゃくちゃ楽しみます。
それは、私たち日本人がディズニーランドへ行ってアトラクションを楽しむ感覚に近いのかもしれません。
自分がどんな哲学を持ち、何を信じているかは、ガイド中には脇へ置きます。ゲストが100%満足できるように振る舞うのがプロだからです。
その瞬間にベストを尽くし、ゲストと一緒に笑い、その時間を最高の時間にする。
私は、侍の格好をすることよりも、その姿勢の中にこそ、現代の侍スピリットがあると思っています。
この章から学べること 文化の本質を大切にしながらも、ゲストの楽しみ方を否定せず、一緒に最高の時間を作る。

第5章 ミッション・インポッシブル日光ツアー

ある日、まさに「ミッション・インポッシブルツアー」とでも呼びたくなる日光ツアーを担当しました(笑)。
通常、日光をしっかり案内しようと思えば、最低でも10時間は必要です。東京から華厳の滝や中禅寺湖までは、渋滞も含めて片道約3時間。往復で6時間です。昼食に1時間かかれば、それだけで7時間になります。
残りの3時間で、東照宮を2時間、華厳の滝を30分、中禅寺湖を30分というのが、一般的な配分です。
ところが、その日の予定は、新宿のホテルを10時に出発し、18時に終了。全部で8時間しかありません。
移動と昼食だけで7時間ですから、観光に使えるのはわずか1時間です。
そこでゲストに、「東照宮か華厳の滝のどちらか一つになります。どちらがよろしいですか?」と聞くと、「紅葉が見たい」とのことでした。そこで、いろは坂を上り、華厳の滝だけを見に行く弾丸ツアーになりました。
10時に新宿を出発しましたが、渋滞もあり、現地到着は13時40分頃でした。途中のサービスエリアでは、ゲストがお土産を見ることを楽しみ、30分以上滞在しました。
それまでの観光は、いろは坂の途中で紅葉の写真を撮るために、2〜3分停車しただけです。
華厳の滝では、まず無料の展望台で10分ほど写真を撮りました。滝壺近くの展望台へ下りるエレベーターは600円で、下から見上げる華厳の滝は、水しぶきも感じられ、迫力がまるで違います。
私は、「一生に一度かもしれない日本旅行なのだから、この景色を見せてあげたいなあ」と思い、
「エレベーターで下まで行きますか?600円かかりますが、迫力は全然違いますよ」
と提案しました。
しかし、ゲストは「行かなくても大丈夫です」と答えました。どれほど違うかを知らないのですから、仕方ありません。
その後は昼食を取り、帰りにもう一度いろは坂で2〜3分だけ写真を撮り、そのまま東京へ戻りました。
結局、8時間のツアーで、純粋な観光時間は15分程度だったと思います。
こういうツアーこそ、ガイドの腕が試されます。長い時間、車に乗っているだけで退屈にならないように工夫しなければならないからです。
これは企業秘密ですが(笑)、一番大切なのは、ゲストと仲良くなることです。できれば友達になることです。
友達になってしまえば、多少のことは許してもらえます(笑)。
移動中にたくさん話し、笑い、家族のことや日本のことを語り合いました。結果としてツアーはとても和やかな雰囲気で終わり、2日間のお礼として小さなプレゼントまでいただきました。
観光時間は15分でも、ツアー全体の満足度が15分になるわけではありません。
目の前の状況でベストを尽くすこと。
常に相手の立場になって考えること。
一生に一度しか日本へ来ないかもしれないゲストに、「どうしたら最高の思い出を持って帰ってもらえるだろう」と考え続けることが、良いガイドになるための秘訣だと思います。
この章から学べること 観光地の数より、移動を含めた一日全体の体験をどう豊かにするかが、ガイドの腕である。

第6章 失敗しても、ベストを尽くせば挽回できる

ある朝、旅行会社から伝えられたホテル名に間違いがあり、本来は新宿の京王プラザホテルへ行く予定だったのに、私は新橋の第一ホテルへ行ってしまいました。
その結果、ゲストとの待ち合わせに30分ほど遅れてしまいました。
最初にお会いしたとき、ゲストは少し不機嫌そうでした。そこで私は、今まで培ってきたコミュニケーションスキルを総動員して、何とか楽しいツアーにしようと決めました。
お話を聞くと、ゲストはすでに東京の主要な観光地を自分たちで回っていました。そこで、まず谷中へご案内しました。
観光客があまり入らない細い路地や、昔ながらの下町の雰囲気が残る場所を歩くと、とても喜んでくれました。
その後は買い物をして、カフェで休憩。東京大学の三四郎池へ行き、キャンパスを散策しました。
ゲストは昼食はいらないとのことだったので、そのまま東京駅へ移動し、KITTEの屋上庭園、丸ビル35階の展望フロア、新丸ビル7階の丸の内ハウスから見える景色をご案内しました。
最後は東京国際フォーラムを歩いて、ツアーを終了しました。
ツアー終了後、旅行会社から連絡がありました。ゲストから電話が入り、
「本当に素晴らしい時間を過ごせた」
「自分たちだけでは絶対に見つけられない場所へ連れて行ってもらった」
「とても良いツアーだった」
と言ってくださり、朝の遅刻はもう気にしていないとのことでした。
もちろん、遅刻はしてはいけません。しかし、失敗してしまったときでも、その後にベストを尽くせば、挽回できることがあります。
私は旅行会社の社長に、次のような内容を伝えました。
ゲストにとっては、旅行会社のミスなのか、ガイドのミスなのかは関係ありません。だから私は、プロとしてまず心からお詫びしました。
一生に一度かもしれない日本旅行を嫌な思い出にしてほしくなかったので、どうしたら楽しんでいただけるかだけを考え、全力を尽くしました。
ツアーの最後には、「私たちの国へ来ることがあったら、ぜひ家に泊まりに来てください」とまで言っていただきました。
私は、真のプロフェッショナルとは、問題をただの問題として見るのではなく、より良い体験を提供するチャンスとして捉え、そのために行動できる人だと思っています。
後日、旅行会社の社長からは、ゲストが「アキは私たちだけでは絶対に行けない隠れた場所へ連れて行ってくれた。完璧なツアーだったので、30分遅れて始まったことなど忘れてしまった」と話していた、と連絡をいただきました。
人生でもガイドでも、大切なのは失敗しないことだけではありません。
失敗したあとに、どう行動するかです。
目の前の状況を受け入れ、その中で今できるベストを尽くす。そうすると、不思議なことに最後は何とかなることがあります。
その日もまた、ゲストから大切なことを教えていただきました。
この章から学べること プロとは失敗しない人ではなく、失敗のあとに責任を引き受け、体験を立て直せる人である。

第7章 難しいプライベートツアー Part 1

アメリカから来たセレブのご家族を、4日間担当したことがあります。ご夫婦と、10代を中心とした子どもが3人のご家族でした。
このご家族は大阪から入り、京都を観光してから東京へ来ました。
京都では、旅行会社が最高級の懐石料理店を2日間予約していました。しかし、
「子どもがいるのに料理が何品も出てきて、時間が長すぎる」
「アナゴが食べられない」
「煮魚に目があってグロテスクだ」
など、食事への不満が多かったそうです。
日本人なら、「こんな素晴らしい懐石料理を2日間も食べられたら天国だ」と思うような豪華な食事です。しかし、価値観は人によって違います。
京都から東京へ移動するときにも、トラブルが起きました。当初は三島駅で落ち合い、富士山が見える日本一長い吊り橋へ行く予定でした。しかし曇りで富士山が見えないため、三島では降りず、そのまま東京へ来ることになりました。
ところが、三島から東京までの指定席が取られていませんでした。三島駅から別のお客さんが乗ってきて、座席を移るよう車掌さんに言われ、たくさんの荷物を抱えて自由席へ移動したそうです。
WhatsAppのグループチャットには、「なんてひどいアレンジメントなんだ」と怒りのメッセージが書き込まれていました(汗)。
最悪の状況で東京駅の新幹線ホームへ迎えに行くと、皆さん、かなりおかんむりの様子でした。
こういうときは、明るく楽しくやるしかありません。私は全力で、東京での時間を楽しんでもらおうと考えました。
ホテルに荷物を置いたあと、「どこへ行きたいですか?」と聞くと、10代の女の子が銀座でショッピングをしたいと言いました。そこで希望のお店へ行き、1時間半ほど買い物をしました。
次は原宿のファッションのお店へ行きたいとのことでした。しかし、お目当てのお店には長い行列ができていて、30分待ちでした。
「そんなに待てない」と言うので、私は「それでは僕に任せてください」と言って、雨でも歩きやすい表参道ヒルズへご案内しました。そこでも1時間半ほど、買い物を楽しんでいました。
内心では、「せっかく日本へ来たのだから、ショッピングばかりではなく、明治神宮や皇居も見てほしいなあ」と思いました。
4日間ずっと買い物に付き合うのかと思うと、少し気が重くなりました。しかし、これも仕事です。
帰りの車で「今日はどうでしたか?」と聞くと、ご両親は、
「今日は最高だった。アキは、銀座のお店へ行ったあと、私たちがどんな場所へ行きたいのかを理解して、雨でも傘のいらない大きなショッピング施設へ連れて行ってくれた。今日は十分に買い物ができたので、みんな満足した。明日からは、アキが良いと思うところへ連れて行ってください」
と言ってくれました。
私は、自分が良いと思うことではなく、彼らがやりたいことを、期待以上にできるようにしました。その結果、信頼してもらい、翌日からは私に任せてくれることになりました。
ここには、ガイドをする上で大切な学びがあります。
まず相手がやりたいことを最大限に実現すること。
ホテルのコンシェルジュのように、簡単にノーと言わないこと。
そうして信頼を得ると、こちらが本当に見せたい場所や文化にも、興味を持ってもらえるようになります。
グループツアーの場合は、旅行会社がデザインしたコースやテーマを最大限に体験してもらうことが大切です。原宿なら「ファッションの街を体験する」、築地なら「東京の食文化と市場の活気を味わう」というように、その街のテーマを考えてプレゼンします。
自分がやりたいことを優先するのではなく、旅行会社が約束している体験と、ゲストが望んでいることを最大限に実現する。
それを極めると、プライベートツアーで指名され、やがて自分が提案するツアーも自由にできるようになっていくのだと思います。
ちなみに、「明日からはアキのやりたいように」と言われたので、ご主人と息子さんが魚釣り好きで、おまかせ寿司を食べたいと言っていたことから、翌朝は豊洲のマグロの競りを見に行きました。
この章から学べること まずゲストの希望を期待以上に満たして信頼を得る。そのあとで、自分が伝えたい日本へ案内する。

第8章 難しいプライベートツアー Part 2

そのご家族のツアーは、翌日からさらに難しくなりました(笑)。
日本人の感覚なら、10歳、14歳、16歳の子どもを連れて海外旅行へ来たら、家族で一緒に行動することが多いと思います。しかし、このご家族は違いました。
ある朝は、10歳の娘さんをホテルに残したまま、家族で出かけていました。
NBAファイナルを見たいというので、私は渋谷のスポーツバーを探して、まずそこへご案内しました。ところが店に入ってすぐ、奥さんから、
「私はあまり興味がないので、ショッピングへ行きたい。一緒に来てくれない?」
と言われました。
表参道ヒルズのような素敵な場所が良いとのことでしたが、渋谷だったので、宮下パークの商業施設へご案内しました。
すると今度は、
「娘を日本橋のホテルまで迎えに行ってほしい」
と言われました。
私を信頼して10歳の娘さんの迎えを任せてくれることはありがたいのですが、家族がいつも別々に動くので、ガイドとしては非常に大変です。
娘さんを迎えに行く途中で、「アート体験をしたい」と言われたので調べていると、今度は「刀の体験はできない?」と連絡が来ました。
原宿の忍者カフェを見つけてリンクを送ると、「それは私が行きたいところではない」との返事です。
さらに、寿司体験と漫画体験の写真を送ってきて、「どちらかできない?」と言われました。
寿司体験を当日に予約するのは難しく、漫画体験も初心者向けコースは午前中で終了していました。
数分ごとに行きたい場所が変わります。そのたびに、予約が取れるか、移動時間はどれくらいかを調べなければなりません。確認できた頃には、また別の場所へ行きたいと言われます。
日本橋から渋谷へ戻る地下鉄の中でも、ずっと検索していました。
こういうとき、手を抜いて、きちんと調べずに「予約できませんでした」と言ってしまうと、あとで必ずしっぺ返しが来ます。それは経験上、嫌というほどわかっています。
ですから、粘り強く調べ続けました。
渋谷へ戻る途中、今度は青山の地図が送られてきて、「こういうクールな場所に行きたい」と言われました。
その後、「渋谷のスクランブル交差点へ来てください」と連絡があり、合流すると、今度は「原宿の街を歩きたい」と言います。
ようやく落ち着いたかと思うと、また侍体験のリンクが送られてきました。
さすがに一人ではマネージしきれなくなり、オフィスのはなちゃんに電話して、体験を検索して結果を送ってもらうようお願いしました。
これが、チームで仕事をする良いところです。
このご家族と一緒にいて、私は少し違和感を覚えました。
私が家族とニューヨークやロンドン、エルサレムへ行ったときは、その街の名所や美術館へ行き、子どもが今何をしたいかだけではなく、その街でしか味わえないものを体験させようと考えていました。
しかし、このご家族は、子どもが欲しいものを買い、やりたいことをできる限りやらせてあげようとしていました。
10歳の子どもが、タワーレコードで「デザインがきれいだから」という理由で、1枚5,000円ほどのLPレコードを10枚も買っているのを見たときは、さすがに「えー!」と思いました(笑)。
裏原宿では、子ども向けのTシャツを10枚ほど買っていました。
私は内心、「買い物とペットカフェ、忍者体験、漫画体験だけで、東京の歴史や文化をほとんど知らないまま帰ることになるのではないか」と思いました。
しかし、それは私の基準です。
人はそれぞれ、価値を置くものが違います。明治神宮へ行くよりも、原宿で買い物をすることに価値を感じるなら、それは彼らにとって意味のある旅です。
そう思えなければ、良いガイドにはなれません。
ゲストもこちらの気持ちを感じ取ります。こちらが「こんなことをして、何が楽しいのだろう」と思っていれば、言葉に出さなくても伝わってしまいます。
他人をあるがままに受け入れることは簡単ではありません。特に、その「あるがまま」が自分の常識から大きく離れているときは難しいものです。
でも、そこにこそ、ガイドとして、そして人間としての修行があるのだと思います。
この章から学べること 自分の常識と違う旅の価値観も否定しない。必要なときには、一人で抱え込まずチームの力を借りる。

第9章 ツアーガイドの極意

ツアーガイドの極意とは何か。
私は、「自分の能力を超えるような大変なリクエストや、わがままに思えるリクエストに対しても、笑顔で気持ちよく対応できること」ではないかと思っています。
プライベートツアーでは、できる限りゲストのリクエストに応えます。
一方、グループツアーでは考え方が違います。ツアー全体のスケジュールや目的を優先しながら、時間に余裕があれば対応します。ほかのゲストに迷惑がかかるようであれば、その場の状況に応じて判断します。
簡単なゲストを担当するより、難しいゲストを担当するほうが、ガイドとして成長できます。
野球で、時速100kmのピッチャーを打つ練習ばかりするより、160kmのピッチャーと対戦したほうが実力がつくのと同じです(笑)。
もちろん、大変なリクエストを受けた瞬間には、「面倒だな」「大変だな」と思います。私もまだまだ人間ができていませんから(笑)。
だからこそ、その感情を態度に出さないことが大切です。
プロフェッショナルとは、どんな状況でも笑顔を忘れず、余裕のある態度で接する人です。
「私は一流のコンシェルジュです。どんなご要望にも、できる限り対応します」
そんな雰囲気でゲストに接すれば、ゲストは安心し、信頼してくれます。
私は、大変なゲストほど、自分を成長させてくれる先生だと思うようにしています。
そう考えると、嫌な出来事にも、少しずつ感謝できるようになります。
ガイドの仕事は、ゲストをご案内する仕事であると同時に、自分自身を成長させてくれる仕事です。
この章から学べること 難しいゲストは、対応力と人間性を鍛えてくれる先生。感情ではなく、プロとしての態度を選ぶ。

第10章 良いガイドになるための秘訣は、客観性を持つこと

息子の会社でガイドのインストラクターをしていると、研修生から「良いガイドになる秘訣はありますか?」と尋ねられます。
一言で答えるなら、「客観性を持つこと」だと思います。
私はいつも、良いガイドになるためには、
「日本の歴史や文化を学ぶこと」
「プレゼンテーションを学ぶこと」
「おもてなしの心を持つこと」
という三本柱が大切だと伝えています。
しかし、それ以上に重要なのは、自分を客観的に見られるかどうかです。
もし、「自分はもう良いガイディングをしている」と自分で自分を承認してしまったら、その時点で成長は止まってしまいます。
研修期間中は、インストラクターや研修生の仲間に、
「私を見ていて、改善したほうがいいと思うところはありますか?」
と、素直にお願いしてみてください。
人は自分の長所には気づきやすいものですが、短所にはなかなか気づけません。
私自身も、ガイドとして多くの経験を積み、数々の修羅場を乗り越えてきました。それなりのガイディングはできると思っています。
しかし、自分の問題点に気づかなければ、それ以上成長できません。
幸い、私の場合は息子が会社の社長です。彼は社長の立場から、私の問題点を率直に指摘してくれます。
「これだけ会社に貢献しているのに」と思うことがあっても、問題があれば容赦なく言ってきます。
もちろん、一瞬ムッとします(笑)。まだまだ人間ができていませんから(笑)。
それでも、自分では自分のことがわからないからこそ、意見を真摯に受け止め、改善しようと努力します。
普通、社会性を身につけた大人は、頼まれもしないのに相手の問題点を指摘しません。嫌われたり、人間関係が悪くなったりする可能性があるからです。
だからこそ、こちらからお願いしなければ、本当に役に立つアドバイスはなかなかもらえません。
一人でツアーへ出るようになると、ゲストも大人ですから、よほどのことがない限り、否定的なことを口コミに書きません。まして、本人に直接伝えることはほとんどありません。
研修生の仲間やインストラクターがいる期間は、自分が成長するための情報を聞ける貴重なチャンスです。
最近、新しい道を見つけて会社を辞めたガイドが5人ほどいました。私は、彼らが辞めるときに、自分のガイドとしての問題点を聞きました。
その意見は、めちゃくちゃ参考になりました。言われたことを修正したことで、ガイドとしても、人としても、少しスキルが上がったと思います。
口コミは、現在のガイディングの「結果」を教えてくれます。
一方、仲間やインストラクターからの率直なアドバイスは、その結果を生み出している「原因」を教えてくれます。
自分から改善点を聞き出せる人は、必ず成長します。
私は、それが良いガイドになる一番の近道だと思っています。
この章から学べること 口コミは結果を、仲間の率直な助言は原因を教えてくれる。成長したい人ほど、自分から改善点を尋ねる。

第11章 自分より優れている人から学ぶ

バングラデシュ出身のガイド、シシユの富士山研修ツアーに参加したことがあります。
彼は富士山へ200回以上行っているだけでなく、非常に情熱的なプレゼンテーションをします。そして何より、その知識欲と知識量には圧倒されました。
私自身も富士山ツアーには何十回も参加しています。しかし、彼の知識量は別次元でした。おそらく、私が普段説明している内容の10倍以上を知り、それを惜しみなくゲストに伝えています。
あそこまでいくと、富士山が見えるか見えないかよりも、シシユ自身の魅力と知識によってツアーが成立しているように感じました。
富士山ツアーで一番難しいのは、雨や曇りで富士山が見えないときです。
ゲストは、インターネットで見た晴天の富士山をイメージして参加します。見えなければ残念に感じるのは当然です。
しかし、天気はガイドには変えられません。
変えられない条件の中で、どれだけ楽しんでもらえるかが、ガイドの腕の見せどころです。
富士山が見えたから楽しかった、ではなく、
「シシユのツアーだから面白かった」
というレベルになれば最強です。
自分より優れた人を見たとき、落ち込んだり、張り合ったりする必要はありません。
素直に学び、自分に取り入れればいいのです。
良いガイドになるためには、知識を増やすだけではなく、優れたガイドの情熱、話し方、ゲストとの接し方を、実際に見て学ぶことが大切だと思います。
この章から学べること 自分より優れた人は競争相手ではなく教材。知識だけでなく、情熱や話し方、場の作り方まで学ぶ。

第12章 仕事を通じて人格を高める

日本に生まれ育った私にとって、「仕事を通じて人格を高める」という考え方は、ごく自然な価値観です。
私は仕事を、禅寺での修行と同じような気持ちで捉えています。
それは仕事だけではありません。食事をするとき、トイレを掃除するとき、部屋を片付けるときなど、日常のあらゆる行動が人格を磨く修行につながる、という考え方が日本にはあります。
日本の学校では、子どもたちが自分で教室を掃除し、整理整頓をします。相手に敬意を込めて挨拶し、自分の主張だけではなく、周囲との調和を考えて行動します。
もちろん、現実の日本人がいつも完璧にできているわけではありません。しかし、目の前のことに心を込めて丁寧に取り組むことを大切にする価値観は、日本の生活の中に息づいていると思います。
私もガイドをするとき、「仕事を通じて人生を学ぶ」「目の前のことに最善を尽くす」という姿勢を大切にしています。
ゲストから、実現不可能に思えるリクエストを受けても、最初から「できません」とは言わず、まずは挑戦します。
実現できれば、ゲストが喜ぶだけではなく、自分自身の能力や人間性も高まると思うからです。
息子の会社のガイドを見ていても、高い評価を受ける人には共通点があります。
ゲストのリクエストや質問に全力で向き合い、「どうしたら日本の旅をもっと楽しんでもらえるか」を常に考えて行動していることです。
歴史や文化の知識、英語力、プレゼンテーション能力は、もちろん大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、
「今この瞬間、目の前のゲストのために何ができるのか」
を真剣に考え、心を込めて行動する姿勢です。
それこそが、本当に良いガイドになるための資質ではないかと思います。
この章から学べること ガイドの仕事は知識を披露する場ではなく、日々の行動を通じて自分の人格を磨く修行でもある。

第13章 祭りの本質

下町の祭りを経験したことがない人から見ると、日本の祭りは、ただお酒を飲み、神輿を担ぎ、ときにはケンカまでしているように見えるかもしれません(笑)。
まあ、それも間違いではありません。
でも、私が祭りに参加する理由は少し違います。
私にとって祭りは、ご先祖様の魂を身近に感じることができる、特別な時間だからです。
東京の下町で生まれ育った人間にとって、祭りは一年の中でも最も大切な行事の一つです。中には、人生を祭りに捧げているような人もいます(笑)。
祭りの二日間だけは、普段の社会のルールが少し緩み、町の人たちが無条件に一緒になって楽しみます。
だから祭りには、子どもの頃からの思い出がたくさん詰まっています。
祭りの準備をしているときや、神輿を担いでいるとき、亡くなった父や祖父母との思い出が自然によみがえります。
そして不思議なことに、今でも、その人たちの気配を近くに感じることがあります。
「お父さん、私は今、こんなふうに生きていますよ」
「おじいちゃん、おばあちゃん、元気でやっていますよ」
祭りを通じて、そんな会話をしているような気持ちになります。
私にとって祭りは、ご先祖様に感謝し、自分の生き方を報告する場でもあります。
ご先祖様のエネルギーを感じながら、町を神輿で練り歩く。それは、最高に幸せな時間です。
もちろん、祭りの楽しみ方は人それぞれです。精神的な意味を感じる人もいれば、ただお酒を飲んで騒ぐことが楽しい人もいます。
どちらが正しいということではありません。
祭りは自由です。みんなが自分の好きな形で楽しめばいいのです。
祭りを知らない人には乱暴に見えることもあります。しかし、祭りを知っている人にとっては、それもまた粋であり、美学です。
祭りとは、清らかなものも、混沌としたものも、全部ひっくるめて受け入れる世界だと思います。
そこには年齢も立場も関係ありません。子どもも大人も、お金持ちもそうでない人も、それぞれが自分の居場所を見つけて楽しんでいます。
祭りの二日間だけは、まるで別の世界に生きているような感覚になります。
自由で、開放的で、みんながありのままの自分でいられる世界です。
私はときどき思います。
「人生をあるがまま受け入れるというのは、こういうことなのかもしれないなあ」と。
だから、朝5時30分集合で本社神輿を担ぐと聞いても、「早くて大変だなあ」とは思いません。
むしろ、「今年も祭りが始まるぞ!」とワクワクしてしまうのです(笑)。
この章から学べること 異なる価値観や混沌も含めて受け入れる祭りの世界には、人をあるがままに見るヒントがある。

第14章 可愛い子には旅をさせよ

サッカーの日本代表を見ていて、改めて感じることがあります。
約30年前、日本が初めて世界の大舞台へ挑戦した頃は、日本と強豪国との実力差は大きく、主力選手が一人欠けるだけで、チームの力が大きく落ちてしまうような状況でした。
それに比べて、今の日本代表は、主力の何人かが欠けても、ほかの選手が高いレベルで戦えるようになっています。
その大きな理由の一つは、多くの選手が海外の厳しい環境で、日常的に世界のトップレベルと戦っていることだと思います。
かつては遠い存在だった世界のスター選手が、今では毎週のようにリーグ戦で顔を合わせる相手になっています。
高いレベルの中に自分を置くことが、人を大きく成長させるのです。
それを見ていて、自分の人生を振り返りました。
私も20代の頃、約2年間インドで生活しました。30代後半には、ヨーロッパやアメリカを半年ほどかけて講演旅行しました。
今振り返ると、この二つの経験が私の人生に与えた影響は計り知れません。
海外での生活や仕事で厳しい環境を経験したからこそ、その後どんな困難に直面しても、
「インドでの生活に比べれば、大したことはない」
「アメリカの学生に講演中に言われたことに比べれば、大したことはない」
と思うことができました。
そうした経験が、人生のさまざまな困難を乗り越える力になりました。
息子を見ていても同じことを感じます。
彼は15歳から18歳までイスラエルの高校へ留学し、英語だけでなくヘブライ語も話せるようになりました。世界約30か国から集まった若者たちと寮生活を送り、親元を離れて暮らした経験は、彼を大きく成長させました。
同年代の日本の若者と比べても、プレゼンテーション能力やリーダーシップに大きな違いを感じます。
私も息子も、若い頃に海外で経験したことが、その後の人生に大きな影響を与えています。
「可愛い子には旅をさせよ」
昔の人が残したこの言葉には、人生を豊かに生きるための深い知恵が込められていると思います。
今、私は息子の会社でガイドをしています。
日本が持っている価値観や行動の仕方を伝えることで、外国から来たゲストの人生を豊かにするきっかけを作れるかもしれません。
だから私は、自分の持っているベストを尽くして、おもてなしをします。
ゲストは、説明だけではなく、私たちの行動を通じて、その背景にある日本人の考え方や行動様式を感じ取ってくれます。
歴史や文化の説明は、明石家さんまさんに負けないくらい楽しくプレゼンする(笑)。
ツアー中は、マクドナルドのお姉さんやディズニーのキャストのように、笑顔と愛想の良いサービスを欠かさない(笑)。
そんな気持ちでガイドをしていると、私自身もワクワクします。
ガイドとは、外国の方に日本を見せる仕事です。
同時に、日本と世界をつなぎ、お互いの人生を少し豊かにする仕事なのだと思います。
この章から学べること 高いレベルと異文化の中に身を置く経験は、人の耐性、視野、表現力を大きく育てる。

おわりに 目の前のことにベストを尽くす

この三年間、ガイドの仕事を通じて、私はさまざまなことを学びました。
自分の価値観を押しつけるのではなく、ゲストの立場で考えること。
失敗したときは、言い訳をするのではなく、その後にベストを尽くすこと。
難しいリクエストから逃げず、笑顔で対応すること。
自分より優れた人から素直に学び、自分の問題点を客観的に見ること。
そして、どんな仕事も、自分の人格を高める修行だと考えること。
ガイドを始めた頃の私は、「日本の素晴らしさを伝えたい」という気持ちが強く、自分が見せたいもの、自分が話したいことを優先していた部分がありました。
しかし実際には、私が見せたいものと、ゲストが求めているものが一致するとは限りません。
だからこそ、まず相手を知り、相手が望んでいることを理解し、その期待にできる限り応える。
その上で、自分の知識や経験を使って、期待を少し超える体験を作る。
それが、良いガイドの仕事なのだと思います。
私は65歳ですが、ガイドを始めたことで、まだまだ自分が成長できることに気づきました。
難しいゲストも、失敗も、予想外の出来事も、すべてが新しい人生のレッスンです。
これからも、目の前のゲストに興味を持ち、どうしたら喜んでもらえるかを考え続けます。
そして、自分の持っている知識、経験、笑顔、ユーモアを全部使って、その人の日本旅行が、忘れられない時間になるようにベストを尽くします。
それが、今の私が考えるツアーガイドの仕事です。
良いガイドとは、すべてを知っている人ではありません。目の前の人に興味を持ち、その人のために考え続け、変化し続けられる人です。
自信を持ってゲストをリードしながら、学ぶときは誰よりも謙虚でいる。失敗したときは言い訳ではなく行動で挽回する。そして、どんな一日にも笑顔とユーモアを忘れない。
私はこれからも、東京を自分の庭のように歩き続けます。そして、一人ひとりのゲストにとって、その日が「アキと一緒だったからこそ生まれた、忘れられない日本の一日」になるように、ベストを尽くしていきます。

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